トップ > 平成28年12月> 27日

最高裁判例

2016年12月27日「火曜日」更新の日記

2016-12-27の日記のIMAGE
私的整理合意に対する債権者取消権が問題となった下級審からは,民法の債権者取消権の要件論として,債権回収の集団的秩序を考慮に入れた詐害性の判断のありようを取り出すことができるが,最高裁判例においてはこのような観点はどのように取り入れられているだろうか。例えば判決は,系列小売店Aに信用取引で牛乳を継続的に供給していたメーカーYが,経営難に陥ったAに対して,代金滞納を理由に継続的取引契約の解除を通告したが,従来設定していた根抵当権の極度額を増加させ,他に営業用設備および営業権の譲渡担保の設定を受けるなどの増担保を得ることを条件に取引を継続する旨の和解契約を結んだ事案において,増担保の設定が債権者取消権の対象となったケースである。最高裁は増担保契約が事業継続のための担保提供行為として合理的な範囲を超えたものではないとした他,Yとの取引の打切りを避け営業の継続を図ること以外にはA会社の更生策として適切なものはなかったとして,詐害性を否定した。ここでの詐害性判断には一見倒産法的考慮が加味されているかに見えるが,Yと他のXを含むAの一般債権者との間に,債権回収の集団的秩序がどのように形成されていたかに関する判断枠組みを欠いている。事案の解決としても,次の諸点に疑問が残る。すなわちYの増担保供与時に300万円たらずであったYの債権について,清算の結果600万円以上で換価された目的物に担保権を設定することが果たして「合理的範囲」に含まれるのか,Yは担保処分による金員を,自らも含む担保権者等の一部の債権者へ弁済した後,その残余200万円余をAに返還したが,それがAの生活費として費消され,Xのそれも含めて600万円余りに上るらしい一般債権への弁済は為されなかったことはどう評価されるのか,AYの取引関係が更生の唯一の可能性であるということが反面で意味する,YのAに対する支配可能性は,この場面での詐害性の判断にあたって何ら考慮の対象とならないのか,そのような支配的な債権者Yが,私的整理のための交渉および合意形成の枠組みを,機構的に。はまったく形成しないまま,相当に弾力的な清算のための手配を独行していることを詐害性との関係でどう評価するのか,といった点である。また先に述した最判のいわゆる「通謀的害意」論も,その背後に以上に述べた債権回収の集団的秩序に基づく義務を基礎とした詐害性の枠組みに照らして再検討する必要が浮かび上がる。この事件では,スーパーマーケットを営むAに対して,最大の債権者であった衣料卸業者Yが,系列会社を介在させた複合的な契約によって行った回収が詐害行為の対象とされた。しかしこの事案では,当該債権回収行為の後,Aをめぐって「債権者団」が形成され,各債権者から委任状を得た債権者団は,YがAの所有不動産上に有していた極度額2000万円の根抵当権を放棄することと引換えに,本件回収行為を承認するという和解契約をYとの間で結んでいる。さらに取消債権者X自身もこの不動産の処分代金から債権者団を通じて仮払金として9万5000円の弁済を受けている。これらの事情自体はいずれも前記下級審の枠組みに照らせば詐害性を否定する方向で作用すると思われるが,最高裁は,取消を肯定するのに際して既述した「通謀的害意」論の定式を繰り返すのみで,その判断のプロセスは判然としない。このように最高裁も,私的整理という手続段階における債権回収の集団的秩序の侵害が問題となる事案に直面してきたにもかかわらず,その形成している詐害性判断の枠組みは,弁済に関する「通謀的害意」論に典型的にみられるように,そのような倒産的考慮を適切に組み込む言語的構成を欠いている。そこでの事案と判断との対応を機能的に分析して,債権者取消権制度の倒産法的考慮に立った再設計の可能性を論じることはできても,債権者取消権の要件論に関する判例法には.(A)にみた下級審の分析から取り出される枠組みのような発想は見いだされない。

このページの先頭へ