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三つのシナリオ

2016年12月29日「木曜日」更新の日記

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いま,債権者Cが,債務者Bの下に。唯一の回収可能資産,例えば未収売掛代金債権を発見し,第三債務者との取引上の特殊な関係もあって,Cならばこれを極めて安価に回収できるとしよう。他方債務者Bには他に債権者Aも存在し.A,Cの債権を併せるとこの資産の価値を超えているとしよう。このとき破産申立ての費用,私的整理の費用,取消訴訟の費用が或る条件を満たしていれば,取消債権者Aと先行回収者Cとの債権額の大小によって,債権回収の法的なシナリオには次のようなヴァリエーションが生じる。すなわち,①先行回収者Cが大口債権者として,取消債権者Aに比べて圧倒的に多額の債権を有している場合には,按分弁済を内容とする私的整理が選択される。②大口債権者Cが取消債権者Aに対して圧倒的とまで言えない場合でもなお,Cは単独で回収を行った上で,Aが取消権を行使して「事実上の優先弁済」を受けるにまかせる。③A,Cの債権額が拮抗している場合には,破産手続が選択される。いいかえれば,事実上の優先弁済効を認める判例法理は,小口債権者Aに,大口債権者Cの独占的回収行為に対する牽制の手段を与えることで,①の場面では,債権額の懸隔,したがって交渉力の格差があるにもかかわらず,AC問に私的整理を通じた「事実上の平等弁済」を実現するのである。Cは②の場面でも破産配当を受けるよりは良化するし,③の場面を選択して破産配当を確保することは最低限できるので,この牽制が弊害を生むことはない。<(2)私的整理のための交渉>上記の三つのシナリオを分かつのはA,Cの債権額の相対的大小であるが,実際の私的整理交渉の場面ではこれは固定された比率ではないことにも注意すべきである。この比率は多数の債権者の中での多数派形成のための努力によって変化するから,Cはこの比率を変えて③のシナリオを脱して,①のシナリオを実現することができる。具体的には,回収可能資産を発見した大口債権者Cは私的整理交渉を進めて,同意する債権者を糾合して,反対債権者を孤立させ,取消債権額を少額に抑えようとする。もちろんその対価として大口債権者は同意債権者に当該資産からの回収の一部を配当することを約束しなければならないが,それは比例弁済原則に少なくとも機械的には拘束されず,多数派内部の交渉力によって決まる。他方,中問的な債権者Mはこの交渉の中で,いつでも反対派債権者Aに与する選択肢をもつが,このことはCとMとの間の交渉力の格差を是正し,ひいては私的整理による配当をヨリ平等主義的な方向にする作用をもつ。

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