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キッズルームで演奏会

2017年2月10日「金曜日」更新の日記

2017-02-10の日記のIMAGE
フロントの中田は、どちらというとおっとりした性格。早い大が10分でこなす仕事を30分掛ける。モタモタしているのではなく、正確に安全に作業をしようとするため、どうしても時間が掛かってしまう。しかし、仕事ぶりは丁寧で、周囲を汚したり、傷付けたりすることがない。これは、一般的なサービス業では必ずしも喜ばれない。「丁寧なのはいいが、もう少し早くできないか」。以前、ファーストフード店でアルバイトしたときは、慎重さが裏目に出た。ところが、マンションの管理では、「そのくらいの人のほうが安心できる」と評価される。例えば、マンションの居住者から伝言を頼まれたときには、一言ずつ確かめるようにノートに書き、書き終えてから、再度相手名と内容を確かめる。このやリ方は、高齢者にも主婦にも喜ばれた。日ごろバリバリ仕事をこなす30代、40代男性も家では気を抜き、行動のスピードが落ちる。この「マンション内のスピード」に、中田は見事にはまったのだ。さらに、大なつっこい笑顔も中田の持ち味で、にこやかに「おはようございます」と挨拶されると、居住者もつられて笑顔になる。「おはよう、今日も暑いね。昔はこれほどじゃなかった。だいたいねえ……」と話し込んでしまうのだった。そんな立ち話の中から、「実は、私の住戸を売りたいと思っているんだけど」という居住者がいた。「といっても、買い手がいるかなあ」ああ、それでしたら、と中田。「このマンションに賃貸で住んでいらっしゃる人が、このマンションが気に人った、買いたいとおっしゃっていました」分譲マンションには、購人した後に転勤になったので人に貸す、投資目的で購入して人に貸すというパターンがあり、家賃を払って住んでいる人たちがいる。そのような人は、区分所有者ではなく、管理組合の組合員でもない。しかし、そのマンションで一緒に住んでいる人には違いないので、中田は区分所有者と同様に接していた。そんな賃貸居住者の一人が、買いたいと思っていたのだ。「そんな人がいるの?ぜひ、紹介してよ」「分かりました。でも、個人情報の問題があるので、ここで、その人の名前をお知らせするわけにはいきません。私からその方に連絡して、本当に買う気があるか確認します。もし、買う気があるのであれば、お知らせしますよ」ぜひ、そうしてほしい、となった。確認したところ、条件が合えば買いたいとのこと。そこで、中田は管理会社の担当社員と相談。不動産取引を相対で行うのは面倒が多いし、不安も生じやすい。同じ不動産会社のグループで中古住宅の仲介を専門にする会社を紹介し、間に入ってもらうのはどうだろう、となった。中田がその提案をすると、売り手と買い手双方が「そのほうが、よい」と言う。それで、仲介会社に「仲介手数料は勉強して差し上げて」という条件を付け、間に入ってもらった。話はトントン拍子で進み、双方損のない金額が折り合い、仲介手数料も"特別設定"に。仲介会社から「こんなスムーズに進むケースは珍しい」と言われたのである。別の話だが、中田はマンション内のコンサートを企画したこともある。マンションのエントランスで、バイオリンのケースを肩に掛けて歩いている人がいた。似たような形でもう少し大きなケース、さらにもっと大きなケースを持っている人もいる。声を交わすうちにバイオリンとビオラ、チェロであることが分かった。みんなプロの演奏者だった。これで。もう一人バイオリンがいれば、四重奏ができる。「もう一人だったら、いますよ」チェロ奏者の知り合いで、今、出産で休止しているが、大学でバイオリンを指導している人がいるという。「だったら」ということで、日月の土曜日の午後、マンション内のキッスルームで演奏会が開かれた。音の反響具合で、キッスルームが最も適していると判定されたからだ。キッスルームは小さな子供の室内遊び場。しかし、今はたまたまマンション内にキッスルームを利用したい年齢の子供がいなかった。だから、ミニコンサードルームとして活用したのである。もっとも、場所が狭く、希望者全員が入ることはできなかったので、途中で入場者を入れ替え、2部構成でコンサートが行われた。「こういう催しがあると、マンションの魅力が増すね」「なんだか、誇らしい気持ちになる」四重奏を満喫した人たちは、すぐにツイッターやLINEでコンサートの様子をアップしたのだった。

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