トップ > 平成29年2月> 24日

新聞でみる借地借家の紛争事例 その3 <ケース1>

2017年2月24日「金曜日」更新の日記

2017-02-24の日記のIMAGE
〈その3・正当事由の考え方を変える暴力団〉                   =事情次第では正当事由も簡単に認められる=  この事例は借地借家の直接の問題ではありません。しかし、地主家主にとって大いに参考となる問題ですので、ここで簡単に紹介しておきます。それは、暴力団I組が所有するビルを「組事務所として使用しないでくれ」という、周辺住民の願いが。仮処分”ではありますが、裁判所に認められたケースです。  ふつう借地借家の関係では、貸主と借主をめぐり貸主の所有権を圧迫・制限する形で論じられるのですが、右暴力団では自分の所有権の制約を受けたという意味で画期的なものです。  つまり住民は、自分たちの人格権(平穏な生活を営む権利)を組事務所が存在することで不安にさらされ危険を感じていると主張して、組自身が所有するビルを組事務所として使うことはやめてくれIと仮処分を請求し、その主張が裁判所に認められ(昭和六二年一〇月九日・静 岡地裁浜松支部)、かつ”仮処分違反には一日一〇〇万円の違反金を払え”というものです(同年一一月二〇日)。しかし所有権は、もともと他人から何の干渉も受けない権利(物権)です。 だからこの暴力団の論理は「自分の所有ビルをどう使おうと勝手じゃないか」というものでした。それは一理あるのです。だから、右の仮処分を私たちは特殊事例と受けとめています。  この暴力団をめぐる全国各地での立退き問題(貸借によるもの)では、目をみはるような裁 判例が数多く目立ちます。社会現象的にいいますと、暴力団は「正当事由」の解釈を変えつつある、という皮肉(しかし貸主側には有利)な現象が生まれつつあるのです。   〈ケースー〉 この事例も借家法自体の問題ではなく、その特別法=区分所有法(マンション法)によるものですが、全国で初めてこの法律によって暴力団組長・組事務所が「他の住民との共同生活は困難」ということで立ち退かされたものです。暴力団という特殊性を、裁判所が強調し始めた点に注目すべきです。  というのは、暴力団は悪質な借家人であるとの見地に立つかぎり、家主にとっては悪質借家人は何も暴力団だけとは限りません。貸借の存続期間が……とか、立退きの正当事由が…とかいっていないで、とにかく不当・悪質な借主とは戦う強い姿勢も必要だと思います。  さて、この事例ですが、M組長が入居したため、暴力団抗争にまで巻き込まれ悩み抜いたマンション住民が、区分所有法(建物の区分所有等に関する法律―俗称マンション法)に基づいて、組長とそのマンションの部屋の所有者を相手として、・部屋の賃貸借契約の解除、・組長の即時立退きを求めたものですが、横浜地方裁判所はマンション法を根拠に立退きを認めました(昭和六一年一月二九日)。マンション法による立退き判決は珍しいケースです。  こうした場合は、マンション法でなくとも「借家法」でも明渡しI追出しができるのだという意味を含めて、この事例をいま少し詳しく紹介してみます。訴えていた(原告)のはマンションの入居者(三〇世帯)で、訴えられた(被告)のは組長と、部屋の持ち主で組長に部屋を貸していた薬局の経営者です。    暴力団ですから、一般の入居者と合うはずはありません。その状況は、つぎのとおりです。   組長が入居してからは組員が頻繁に出入りするほか、駐車場の無断使用・非常口の勝手使用などが相次ぎ、入居者とのトラブルが始まりました。そのうえ暴力団抗争のため、組長がマソショソを出入りするときは組員が何人かでガードし、さらには入居者の出入りにもボディチエックを始めたのです。   「共同生活は困難、組長は立ち退け」-まさに立派な判決といえましょう。この判決は組長が入居以来、三年にわたる住民の不安な生活に、大きな安らぎを与えたものとして評価せざるを得ません。    法律の形式的な仕組みがあるため、この組長は右判決を不服として東京高裁に「控訴」しましたが、結局は、この控訴は「暴力団の居住は他の入居者の共同生活上の障害を与えている」ということで棄却されました(昭和六一年一一月一七日・東京高裁)。    そしてさらに組長側は「住民に迷惑はかけていない」と頑張ったのですが、最高裁判所も「暴力団幹部が居住し、常時組員が出入りすることは、マンション居住者にとっては堪え難いものである」と判断して、組長側の上告を棄却しました(昭和六二年七月一七日・最高裁)。こ の判決で、暴力団側は翌日にはマンションを退去したのです。  いうまでもなく、当然の判決ですが、この「共同生活が困難」という理由は、ふつうの立退き・明渡しにどんな影響を及ぼすかI大きな関心を持たずにはいられません。

このページの先頭へ